鈴木ユキオ(ダンサー・振付家、YUKIO SUZUKI Projects主宰)インタビュー ~思考をよりクリアに、じっくりと積み上げていきたい

 舞踏を学んだ後、独自の身体を追求してきた鈴木ユキオさん。トヨタコレオグラフィーアワード2008「次代を担う振付家賞」をはじめ多くの賞を受賞し、国内外で公演活動やワークショップを活発に展開しています。鈴木さんにダンスを始めた経緯やダンスシーンをリードする存在になるまでの軌跡、そして2016年3月25日(金)~27日(日)に行われるYUKIO SUZUKI Projects【warp mania #1】への抱負等お話を伺いました。

取材・文:高橋森彦(舞踊評論家)

鈴木ユキオ Yukio Suzuki photo by bozzo

ダンスを始めた頃

 ダンスを始めたのは大学入学のため上京してから。ミニシアター系の映画やノイズ、パンクのライヴに通う中でアングラ演劇に出会ったことがきっかけだった。

 「映画館で寺山修司特集を観て衝撃を受けシンパシーを感じました。アングラ芝居が好きな人たちがやっている劇団に参加し、その流れで舞踏に出会いました」

 1997年、暗黒舞踏の創始者である土方巽の配偶者・元藤燁子が館長を務めていたアスベスト館に通い始める

 「大野一雄さんや笠井叡さん、玉野黄市さん、中嶋夏さん、山本萌さん、それに及川廣信さん(日本マイム研究所元所長)、細江英公さん(写真家)、吉増剛造さん(詩人)たちも教えにこられました。体を動かすことが面白く、『身体で表現することができるんだな』と最初に思えたのがダンスの世界に足を踏み入れるきっかけになりました」


自ら創り踊りはじめる

 土方巽13回忌の公演に出演する等舞台出演も増え、大駱駝艦(麿赤兒主宰)出身の蹄ギガ率いるSAL VANILLA(サルヴァニラ)に所属した。2000年からは自作を発表し、2002年、ダンスカンパニー金魚を立ち上げる。

 「舞踏が好きでしたが、ある瞬間に『自分は「舞踏」を真似しているだけじゃないのか?』と思いました。そこで一度舞踏的なものを排除してみようと考えました。お笑いの人や絵を描いている人を舞台に上げて、自分の持っているものとは違うものを入れようとトライしました」

 2003年のSTスポット「ラボアワード」受賞を皮切りに様々なコンペに入選し始める。

 「創り方を習ったことはありませんが舞踏のグループの影響を受けていたと思います。それと映画が好きだったので映像的な作品を創りたかった。ただグループ作品に自分が出ると僕の身体だけ舞踏的で空気が違いすぎる。ポップな作品だったので演出家に徹した方がいいのかと悩んだりしました。ソロはソロとしてやっていましたが、揺れていたんですね…」

「幸福の森の掟」(「ネスクト・ネクスト5」 2004年、森下スタジオ)

ダンスを疑え!~室伏鴻との出会い

 そんな時期に出会ったのが2015年6月急逝した舞踏家の室伏鴻だった。

 「室伏さんがメキシコで公演するために男性ダンサーを探していて同じアスベスト館出身の目黒大路くんが推薦してくれました。室伏さんとメキシコでずっと過ごした時間は貴重でした。室伏さんの『DEAD1』は逆立ちして、立ち上がって、倒れるというだけのシンプルな作品なのにそれだけで見せちゃう。身体だけでみせるのを目の当たりにして、自分の作品を創る時にも身体にフォーカスするようになりました」

 2006年の『犬の静脈に嫉妬せず』辺りからそれを実践していく。同作のタイトルは土方巽の著書「犬の静脈に嫉妬することから」を意識しているのは明らかであった。

 「『嫉妬せず』と言いながらタイトルを引用している時点で嫉妬しているし離れられないのですが(笑)。そういうもがいている感覚というか現実をタイトルに託しながら、もう一度身体に集中して創る作品に向かっていったという感じですね」

「犬の静脈に嫉妬せず」(「ダンストリエンナーレトーキョー」2009年、青山円形劇場)
photo by Kazuyuki Matsumoto

 2008年にはトヨタコレオグラフィーアワード2008「次代を担う振付家賞(グランプリ)」を受賞した。前年に初演した『沈黙とはかりあえるほどに』を改訂しての挑戦だった。

 「『身体そのものになろう』『存在することでどうやって見せるか』といった身体に回帰することや舞踏を含むいわゆるダンスと思い込んでいたものを捉え直す作業をしました。ダンス的所作、舞踏的所作を排除して体一貫を舞台に投げ出すということにトライした結果極端な強度を持った身体を舞台上に出す方向に向かいました」

 その身体追求を可能にしたのはダンスを疑う姿勢だった。

 「室伏さんには『ダンスがあると思うなよ!』とよく言われました。踊りというものを常に疑えと。ダンスって、どこか「ある」。ヒップホップとかストリートダンスでも学校で習うものになりました。一から習うという言葉がありますが、ゼロから立ち上げることこそ本当のクリエーションではないかと室伏さんに言われたような気がしたんです。ジャンプやターンを形としてはやれるけど気持ちがのらないし綺麗にはできない。どのようしたら自分の身体で、それをリアルな動きとしてできるのかを凄く考えたのですね。結果としてダンスを習ってこなかったことが良い方向に働きました。舞踏は、立つところから始めようとか、歩くところから始めようとか、もっとさかのぼって胎内から始めようというような稽古があり、自分のダンスを見つける作業に役に立ちます。素晴らしい部分があると再認識しました」

「沈黙とはかりあえるほどに」(「トヨタコレオグラフィーアワード」2008年、世田谷パブリックシアター)
photo by Yohta Kataoka

「踊ること」へのチャレンジ

 トヨタコレオグラフィーアワード受賞後、確立したスタイルの再生産に留まらなかった。

 「室伏さんは踊らないということを徹底して突き詰めました。でも、そこから踊ってもいいのでは?と考えたんです。ダンスを習ってこなかったのにダンスを否定している自分がいる。強くみせる身体を引き継ぎながら『踊ること』にチャレンジしました」

 鈴木自身と早くから鈴木作品に出ている安次嶺菜緒、近年加わった堀井妙子、赤木はるかの4人体制で研鑽を積んできた。鈴木以外はバレエやモダンダンスを学んでいる。

 「幼少からダンスを経験してきた彼女たちと自分はダンス言語が違う。やり取りしながら共通言語を作り直していく作業を2、3年行いました。そこで思ったのは意外にバレエと近い部分があるなということ。『こういう感じで』と言うと『それ、昔、バレエの先生から言われたことがある』となったりします。軸の使い方とかポジションとか身体を動かす根本的な所で共通する部分がある。いわゆるダンスをやってきた人たちと作業することによって、そこを理解できたし、通じる部分もあると分かってきました」

「揮発性身体論」(2012年、シアタートラム)
photo by Kazuyuki Matsumoto

 2012年には「揮発性身体論」と題した公演を行い自身の身体論を明確に打ち出す。

 「それまでの強い身体じゃなくて逆側の弱い部分もうまく取り込めるラインでやっと言語化できたというか方法論として提示しました。「揮発」とは常温のまま蒸発していくこと。普通100℃の沸点を経て蒸発していきますが、それとは違ってガソリンやガスのように見えないけれども常温のまま漂っていく。しかし、スイッチ1つひねるとボンと爆発するくらいのポテンシャルを秘めている。音楽にのせてみんなで一生懸命踊る熱のあるダンス、やりきった感のあるダンスは蒸発に近い感じで好きですし自分もやってきています。でも試したのは、もう少し温度を下げて常温のまま、ある種淡々とじっくりじわじわと蒸発していくダンス。じっくり身体でやっていきたいという思いをタイトルに込めました」


ニューヨーク滞在で感じたこと

 カンパニーとしての体制が整い、ヨーロッパやアメリカでの公演も行って着実に評価を高めてきた。そんな中、2015年9月~2016年2月まで、ACC(アジアン・カルチュラル・カウンシル)グランティとしてアメリカ・ニューヨークに滞在した。

 「僕は日本で舞踏に触れて活動を始めましたが、同時期のいわゆるコンテンポラリーダンスの走りというかダンスの概念を変えていったポストモダンダンスに興味がありました。トリシャ・ブラウンのカンパニーのリハーサルを観たり、色々な方に会ってワークショップを受けたり、ビデオアーカイヴに通ったりしました。知識として頭にあったことが体感できました。日本はアジアの端の島国でヨーロッパと比べるには無理がありますが、ポストモダンが上手く伝わらず、そこを飛び越えてコンテンポラリーの波がきたのかなという感覚が自分の中にはあります。それが正しいか分かりませんが、ぼんやりと捉えていたダンスの歴史が、自分の中でつながり、また、自分自身の創作も、舞踏という枠を超えて、その大きなダンスの歴史につながることができるという実感がありました。自分が今何をするかを考える意味でも行って良かったです」

「Waltz」(2013年、シアタートラム)photo by Kazuyuki Matsumoto

 帰国後初の単独公演【warp mania #1】では3作品を上演。グループ作品『微分の堆積』には鈴木含む4人のメンバーに加え新宅一平、五十嵐結也が客演する新作だ。

 「物語ではないある種の記号的部分といってもいいと思うのですが、身体自体の動きにフォーカスして、それを丁寧に積み上げていく時間にしたい。女性ダンサーとはいつも一緒に活動しているので、ある程度意思疎通が楽にできる。その方法論を男性ダンサーに試すとどうなるのか興味があります。バレエやダンスをやってきた人だと予想がつくので、本人自体に色があり、自分でも活動をしている2人を選びました。男性ってカッコつけてシャイで収まりがち。そこを一皮むけるとドーンといける。もうむけている人たちですが(笑)もう一皮むけさせたい」

「春の祭典」(「ダンスがみたい!17」2015年、d-倉庫)
photo by Kazuyuki Matsumoto

 ストラヴィンスキーの同題曲に振り付けた『春の祭典』。2015年7月、日暮里d-倉庫で行われた「ダンスがみたい!17」で委嘱された作品の再演となる。

 「100年聴かれてクラシックと呼ばれている曲ですが、今の作品として使うことにあまり興味はなかったんです。お話をいただき、今この曲で創作する意味を考えた時に、ダンスや音楽の歴史もそうですが、政治や国の問題といった社会との歴史というのがダンスに必ずつながっていると思いました。歴史が積みあがっていることで今がある訳ですし、それをしっかりひも解いて、僕たちは今どうするかを考えるきっかけにしたい。せっかく偉大な音楽に取り組むからには、そこを考える作品にしたいなと。コンセプトはクリアに攻めました」

 スペイン・バスク地方の政治活動家で若くして世を去った女性ヨイエスをモチーフにした『Yoyesに捧ぐ』も含め20世紀の歴史を見つめることによって現在を照射する。

 「資本主義も共産主義も理想を掲げて強固になればなる程にっちもさっちもいかなくなる。プラハの春(1968年)は最初失敗でしたがチェコスロヴァキアに民主化運動が起こるきっかけとなりました。同じようにアートの世界でも新しい風・挑戦が起こる。何か一つ確固たるものができても時代が変われば変わっていく。僕も何か新しいことをするとかではなく、今自分がやる意味って何なのかを考えたい。今踊るということとはどういうことか、作品を創るというのはどういうことか、ダンスってなんだろうかとか…。答えのない問いだけれども歴史を振り返ることによって今が見えてくるのではないかと思います」

「春の祭典」(「ダンスがみたい!17」2015年、d-倉庫)
photo by bozzo

今後の展望

 今後の展望・目標を聞いた。

 「今回新しいダンサー2名に出て貰いますが、今まで熟成してきた部分をオープンにし、それを誰かにパスしシェアして貰える状況を創っていきたい。僕も白井剛さん、中村恩恵さん、小野寺修二さん、小㞍健太さんらの作品に出て教えていただきヒントを貰っています。外からのダンサーに僕の創作現場の輪に入って貰うことで、作品に関わることだけではなく、僕の思想や経験を伝える作業になるし、彼らも全く新しいものを創るきっかけになるかもしれない。作品創りに関しては思考をよりクリアに、そして、じっくりとやって積み上げていく作業を繰り返していきたいですね」

【公演情報】

YUKIO SUZUKI projects【warp mania #1】
日時:3/25 (金) 19:00 start (18:30 open)
   3/26 (土) 19:00 start (18:30 open)
   3/27 (日) 15:00 start (14:30 open)
会場:東京/シアタートラム

振付・演出:鈴木ユキオ
出演:安次嶺菜緒・堀井妙子・赤木はるか・新宅一平・五十嵐結也・鈴木ユキオ

料金:一般前売:3,500 円 /当日:4,000 円
   U24前売:3,000 円(枚数限定)
   ペア割:6,000 円(同一日 2 枚購入/鈴木ユキオプロジェクトでのみ取り扱い)
   世田谷パブリックシアター友の会:3,200 円(前売のみ)
   せたがやアーツカード:3,300 円

予約フォーム:http://my.formman.com/form/pc/giSra7hJrcSf76v5/
公演詳細(チケット購入可):http://setagaya-pt.jp/performances/20160325suzukiyukio.html

お問合せ:YUKIO SUZUKI Projects kingyo.company@gmail.com

主催:YUKIO SUZUKI Projects
提携:公益財団法人せたがや文化財団/世田谷パブリックシアター
後援:世田谷区

YUKIO SUZUKI projects 公式ホームページ http://www.suzu3.com