大人からのバレエ推進委員会監修

第9回 宮沢さゆりさん

第8回

バレエスタジオ リビーナ オーナー

秘密でこっそり近所のバレエスタジオに習いに行っていた

小さい頃からバレエを習いたかったのですが、親はやらせてくれませんでした。でも、お小遣いをためて、秘密でこっそり近所のバレエスタジオに習いに行っていたんです。

  あるとき、ボリショイバレエが来るというので、お金をためてチケットを買いました。その最初に見たバレエがマクシモワとワシリーエフの「ロミオとジュリエット」。それまでバレエは「白鳥の湖」だと思っていたので、白鳥しか観たくないと思っていたのですが、見てみたら、大人ばかりが生き生きと踊って、演技もすごくて、どんどん引き込まれていきました。そのときはロミオとジュリエットの物語も知らなかったんですが、涙が出るくらい感動して、「これがバレエなんだ!」と、ものすごいカルチャーショックを受けました。

同時に、今習っているバレエは、なんだかやっていることが違うんじゃないかと疑問に思ったんです。それで、ロシア語を勉強すればそういう秘密がわかるかなと思って、子どもながらに独学でロシア語を始めました。でもやっぱりあるとき壁にぶつかってしまって、親に相談したら、「今バレエやってるみたいだけど、バレエをやめればロシア語を習わせてあげる」と言われました。レオタードもこっそり洗って干したりしてたんですけど、なんとなくバレるものですよね。

そのときにロシア語を勉強するほうを選びました。でもその頃はまだ日露の国交もなかったので、ロシアのバレエの先生との接触なんてとんでもなく、ただ、少しでもバレエの話が聞きたい一心で、ロシアのバレエ団が公演に来たときに、楽屋やホテルに押しかけてロシア語で話しかけたりしていました。

当時はまだバレエ留学の門も開けていない時代で、唯一、語学留学だけはできたので、それをめざして、高校を卒業後、親に内緒で働いて留学費用をためました。そして「明日ちょっとソビエトに留学してくる」と言って留学したんです。留学してからも、学校の授業もそっちのけで、 バレエ公演のある日は毎晩ボリショイ劇場に通っていました。   そんな留学を終えて、日本に帰ってきてから初めての仕事が、幸運にもロシアのバレエの先生のレッスン通訳の仕事でした。もう、お金を出してもやりたい! と、二つ返事でやったんですが、毎晩夜遅くまで飲み歩くのにもついて通訳して、朝はレッスンの通訳で、その頃ロシア語も達者ではないから、いつも怒られて「お前の通訳はなくてもいい、黙ってろ」なんて言われたこともありました。でも、そのロシア人の先生のレッスンを見て、「この教え方をしているからああいう素晴らしい舞台ができるんだ!」と思ったんです。

その頃、ちょうどカルチャースクールでロシア人の先生が教えるというので、すぐ飛びついて習いに行きました。その先生に密着して「ロシアバレエレッスン」という本をつくり、この経験によってまた、ワガノワメソッドには細かい規則がいっぱいあるんだということが明らかになりました。こうした経験を重ねながら、「こういう教えがなぜ日本でできないんだろう」とずっと思っていました。  

 

 

思い切ってバレエスタジオをオープン!

第1回 つい最近のことですが、ソビエト連邦が崩壊して、ロシアになって自由に行き来できるようになりました。そのときに私は新国立劇場で通訳を始め、ダンサーとして入団されたゲンナージィ・イリイン先生と出会いました(今は退団されています)。ゲンナージィ先生を通じて、弟さんのヴャチェスラフ・イリイン先生にも知り合いました。

  「まさかこんなプリンシパル級の人が日本人のおばさん相手に教えてはくれないんだろうな」と思いつつ、だめでもともとで聞いてみたら、夏にいつもお兄さんのところに遊びにきていたので、旅費もかからずに、教えてくださると言ってくださいました。そこで、ロシアバレエをやりたいという知人を集めて、毎年夏にレッスンを受けることにしました。でもスタジオのレンタル料だけで赤字でした。

その頃、表参道で父が経営していた建築事務所を閉じてしまって、ビルのテナントがあいてたんです。父はコールセンターなどの企業に貸したいと思っていたようなんですが、私はずっとバレエスタジオにできたらいいなと思っていました。しばらくして父が病気で倒れたんです。そのときに、もう私が引き継いでいるし、病気の父にはわからないからと、思い切ってバレエスタジオに変えてしまいました。またもや親に内緒で!

ヴャチェスラフ先生をはじめ、かつて知り合ったロシア人の先生達に声をかけたら、みんな教えたいと言ってくださって、こうして半ば強引に「リビーナ」をオープンしました。 オープンしてからまだ1〜2年ですが、大人からでも、正しいメソッドでレッスンすると、みんな体のラインが変わってくるんです。先生達も「もっとかかと前」「5番って言ったら5番、それは5番じゃない」って、少しの妥協も許さず厳格に教えてくださるんですが、できなくてもそこに向かっているかどうかは、お客さんが観たときにわかるようですね。また、自分が満足すればいいのではなく、お客さんを意識した芸術なんだということも、先生のご指導から如実にわかります。

どんなにつらくても笑顔でいなきゃいけないし、そういうつらさのなかに素晴らしいものができるんだということに気づきます。これがロシアバレエの魅力というか、奥深さですよね。

舞台で観て、正確なほど、忠実なほど感動するのがクラシックだと思うんです。クラシックは厳格さにおもしろみがある。ですから厳しいなかで得られる喜びや、体をつくっていく楽しみを多くの人に知ってもらいたいですし、ワガノワのシステムのすごさをみんなにわかってもらいたい。だから、ロシアバレエが好きできてくださる方がいると、とてもうれしいんです。