大人からのバレエ推進委員会監修

中村みちえコラム

中村みちえ

翻訳家

バレエ愛好家

著書「ニューヨーク ジョフリー・バレエスクール 大人からのバレエ」

第8回『パンクな英国バレエ創始者』

「ザ・レイクス・プログレス」

それまでバレエ鑑賞にはほとんど関心がありませんでした。白タイツとチュチュの世界がどうも苦手で、なのにどうしてバレエをやっているのか、自分でも不思議でしようがなかったのです。 忘れもしない2007年の初夏、ある公演ちらしの写真を見て、あ、これは絶対行くべきと思いました。演目は「ザ・レイクス・プログレス」。英国バレエの象徴的作品と知ったのは後のことです。 有名な風刺画をもとに、莫大な遺産を手にした青年が放蕩のはてに狂死するという筋立てです。王子も姫も妖精も出てこない、ファンタジーとは対極にある徹底したリアリティーの世界でした。 これがバレエ?バレエってきれいなだけじゃない、こういうのもありなんだ。幕が上がるなり、頭の中で盛大に爆竹が炸裂したようで、その後軽い酩酊状態が1週間は続きました。 この作品を振り付けたのが二ネット・ド・ヴァロア女史、英国ロイヤルバレエ団の創始者です。初演は1935年、サドラーズウェルズ劇場においてでした。いったい彼女とはどんな人物だったのでしょう。

ninette de valois

二ネット・ド・ヴァロア女史は1898年、アイルランドに生まれます。本名はエドリス・スタナス。 自伝によると、幼いころから得意なアイリッシュ・ダンスを人前で披露するのが大好きでした。幸福な幼少期を送った故国アイルランドの風土や文化を彼女は終生愛したようです。 長じてロンドンでバレエを学ぶことになりますが、学費と生活費を稼ぐため教えの掛け持ちをしたりもします。その後、ディアギレフ率いるバレエリュスに参加。 そして1931年、サドラーズウェルズ劇場を本拠地とするバレエ団を設立します。これが英国ロイヤルバレエ団の母体となります。

Reminiscing on Serge de Diaghilev

これはバレエリュスに関するインタビュー映像ですが、彼女のきっぱりとした物腰や話しぶりがひときわ目を引きます。 実際、周囲の人物は彼女を「rebel(反逆児)」と称しています。ロシアでもフランスでもイタリアでもない、英国独自のバレエを創ろうという気概もそんな反骨精神から生まれたのではないでしょうか。 前回紹介した「レイク」の数年後に上演されたのが、やはり彼女の振付による「チェックメイト」です。 チェス盤で赤と黒の駒が戦い、結局は赤の王がむごい最期を遂げる、こちらもお伽噺とはほど遠い内容です。 ちなみに、日本では両作品とも小林紀子バレエシアターのレパートリーとなっています。 いずれもサドラーズウェルズ・バレエ団による80年代の録画がDVDで発売されており、amazon.ukなどで入手可能です。 同団は現在バーミンガム・バレエ団に改称され、そのサイトに簡単な作品紹介やキャストが載っていますので、ご興味のある方はご覧になってみてください。

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