大人からのバレエ推進委員会監修

中村みちえコラム

中村みちえ

翻訳家

バレエ愛好家

著書「ニューヨーク ジョフリー・バレエスクール 大人からのバレエ」

第1回『バレエ紅楼夢』

バレエ「紅楼夢」

子どものころ、中国の古典『紅楼夢』が大好きでした。小学校の図書館で何度借りて読みふけったことか。 内容はよく覚えていないものの、ひどく哀しく美しい物語でした。まさかその『紅楼夢』にバレエ版があるなんて思いもしませんでした。 舞台は清朝の没落貴族の館、口に玉を含んで生まれてきた美男「宝玉」と激しさと翳りを合わせ持つ美女「黛玉」。 贅を尽くした館の暮らし、生臭い人間模様、迫りくる滅びの予兆、「人の世は陰と陽、どちらが真の姿が仮の姿か、だれにもわからない」。 ウン十年ぶりにどうしても読んでみたくなり、『要約紅楼夢』(王敏著 講談社)という本を手にしました。 原作はとてつもなく長いのですが、おもな場面を物語に仕立て直したもので、読むとたちまちめくるめく世界のとりこになってしまいます なにが不思議って、この本を読んでいると、小説の世界とバレエの舞台が頭のなかで渾然一体となること。 天上の仙女の舞の場面で「紅楼夢は歌詞にあわせて音律も自在に奏でる即興の歌舞」という言葉が出てきます。だからそうなのでしょうか。 この『紅楼夢』には、あれっと思うような、バレエと京劇が融合したしぐさや表情が多く出てきます。舞台や衣装の色使いにも独特のものを感じます。 中国のバレエ教育には京劇や民族舞踊も積極的に採り入れられているそうです。 そうした事情は ”Mao's Last Dancer”(by Li Cunxin, penguin books) や ”The Story of Dai Ailian”(by Richard Glasstone, Dance Books) で詳しく知ることができます。前者は『毛沢東のバレエダンサー』(リー・ツンシン著 徳間書店)として邦訳が出ています。また、後者は中国のバレエの草分けとされる女性の伝記です。 それにしても、なんとねっとりと濃密な舞台でしょう。たった数分の映像なのに、紅の業に絡めとられるような気分に陥ります。 お願い、まだ終わらないで、もっと見せて、と思ううちに終わってしまう。全幕観るまでは死んでも死にきれません。

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