渡辺真弓ようこそ劇場へ

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No.7

パワー炸裂!スーパースター、ワシーリエフが大活躍
ボリショイ・バレエの偉容を誇示した
『スパルタクス』

 3年ぶりに世界バレエの最高峰ボリショイ・バレエが来日中です。1月27日の津に続いて、大津、浜松公演を成功裏に終え、31日から、東京公演が始まりました。
 最初のプログラムは、ハチャトゥリアン作曲の『スパルタクス』。日本での上演は10年ぶりです。 何と言っても、スパルタクス役のイワン・ワシーリエフが無事来日してくれたのがうれしいです。昨年秋、オーシポワとともに、ミハイロフスキー劇場に電撃移籍して、ボリショイとの来日が懸念されていただけに、ファンの喜びもひとしおでした。

フリーギア(ルンキナ)を守るスパルタクス(ワシーリエフ) クラッスス(ヴォルチコフ)とエギナ(シプーリナ)のデュエット 勝利を祝うエギナ(シプーリナ)とクラッスス(ヴォルチコフ)

  ワシーリエフのスパルタクス。それは圧巻でした。弾丸のように跳んできたかと思うと、今度は、大地を揺るがすようなダイナミックなジャンプ。 どれも“ウルトラ”がつくような破格のスケールです。現在世界で、スパルタクスを、このようにパワフルに踊りきれる人はいないでしょう。会場をただならぬ熱気で満たしていました。
 スヴェトラーナ・ルンキナのフリーギアとのアダージョの見せ場も、アクロバティックな片手リフトの妙技に陶然とさせられ、愛情の溢れたデュエットに強く感銘を与えられました。
 エギナのエカテリーナ・シプーリナとクラッススのアレクサンドル・ヴォルチコフのカップルは、権力者の尊大さをにじませ、存在感たっぷり。 スパルタクス&フリーギアとエギナ&クラッススと、このように善悪を対立させた構図は、バレエの展開を分かりやすくしたもので、グリゴローヴィチ・バレエの特徴の一つでしょう。
 そして、男性群舞の迫力。とにかく幕開きから、スパルタクスの最期の大詰めまで、兵士たちの行軍、戦闘場面、貴族達の行進の場といい、 舞台を満たしていく群舞のエネルギーは圧倒的で、息つく間もないほど、まさに疾風の如く駆け抜けた舞台でした。
 アーティスト達の熱演に、客席からは惜しみない拍手が送られ、最後は客席総立ちで、会場は興奮の渦と化していました。

写真撮影=瀬戸秀美

記者会見の模様から
グリゴローヴィチと岩田守弘に話題集中

左からフィーリン、アレクサンドロワ、アラシュ ホールバーグとルンキナ 岩田守弘とニクーリナ 左からホールヴァーグ、シプーリナ、ルンキナ、フィーリン、アレクサンドロワ、スクヴォルツォフ、アラシュ、ニクーリナ 左からヴォルチコフ、ドミトリチェンコ、ホールヴァーグ、シプーリナ、ルンキナ、フィーリン、アレクサンドロワ、アラシュ、ニクーリナ、岩田守弘、スクヴォルツォフ

 東京初日に先立って、その前日、都内で記者会見が開かれました。出席したのは、芸術監督のフィーリンはじめ、10人のアーティスト達。 昨年の大震災以来、復興途上にある日本を気遣う気持ちが、一人一人の言葉から伝わってくる会見でした。
「3月の大悲劇に見舞われた日本をずっと見守ってきました。心はいつも日本の皆さんとともにありました」というマリーヤ・アレクサンドロワの言葉が胸に響きます。

 今回のプログラムは、巨匠グリゴローヴィチの代表作『スパルタクス』『ライモンダ』『白鳥の湖』の3本立て。 1月2日に85歳を迎えた巨匠は、今なお創作意欲盛んに活動を続け、今回も来日する予定でしたが、あいにく風邪をこじらせ、来日を見合わせることになりました。 それにしても、フィーリンが、「グロゴローヴィチはボリショイそのもの」と感慨深げに語っているように、その存在は、今なお絶大で、どれほど団員達に深い影響を与えてきたか、会見のほとんどがその話題で占められました。

 今シーズンは、リニューアルされたボリショイ劇場における『眠れる森の美女』の新制作を皮切りに、 <グリゴローヴィチ・フェスティヴァル>が企画され、今回の日本公演もその一環。シーズン最後には、『ロミオとジュリエット』が、来シーズンには、『イワン雷帝』も再演されるそうです。

 今回、ボリショイのダンサーとして日本で最後の舞台(2月9日の『白鳥の湖』の道化役)を迎えた岩田守弘は、「気がついたら時間が過ぎていました。 見渡すと、自分が一番の年上でした。最高のクラシック・バレエをお見せしたい」とアピール。さらに「ボリショイは私の人生そのもの。 私たちのバレエは、決して形式的なものではなく、精神的なもので、心や内面的なものを見せるのがボリショイ劇場の伝統なのです。 最後のシーズンを迎え、皆の先輩として踊ってきたことを誇りに思います。ボリショイは永遠に!」

「モリク(愛称)は、私が13歳でバレエを見たときから、既に踊っていました」
(ルスラン・スクヴォルツォフ)

「彼の『ゴパック』には、涙が出るほど胸が熱くなりました」
(マリーヤ・アレクサンドロワ)

『岩田は、振付家として新しい道を進みつつあります。こちらとしてもできるだけのことはしてあげたい。将来日本に彼の作品を紹介できれば』とフィーリン監督は結びました。
多忙なスケジュールの合間を縫って、世界最高峰のダンサー達が垣間見せてくれた和やかなひとときでした。

 グリゴローヴィチ版『スパルタクス』が、初めて日本に紹介されたのは、今から約40年前の1973年のことでした(主演は、ウラジーミル・ワシーリエフ&エカテリーナ・マクシーモワ他)。 その時も、ボリショイの素晴らしさをまざまざと見せつけられ、圧倒されたのを今でも忘れることができません。NHKホールのこけら落しに招聘されたもので、テレビ中継でファンになった人も多かったことでしょう。