大人からのバレエ推進委員会監修

マダム、バレエをご一緒しませんか?

高野達也

太田省吾主宰の転形劇場元演出家。

代表作「もうひとりのアリス」「青い舟の歌」

著書 「現代二等兵物語」

現健康ジャーナル社代表取締役。

Irina Kolesnikova
どさ回りで妖しげに咲いた大きな花 ~イリーナ・コレスニコヴァ~

Irina Kolesnikova

サンクトペテルブルグ生まれ。1998年にワガノワ・バレエ・アカデミーを卒業、エルヴィラ・ココリナに師事。同年SPBTにソリストとして入団して最初の先生はロシアの名誉芸術家であるスヴェトラーナ・エフレモヴァであった。 類稀なダンスと表現力で2000年プリンシパルに昇格、そして翌年にはカンパニーのプリマ・バレリーナとなった。
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名作バレエの踊り方

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 今年の春先に奇妙なバレエのチラシを手に取り、不思議な感覚でそれを眺めたものだった。 ロシアのサンクトペテルブルグ・バレエ・シアターというあまり聞きなれないバレエ団のものだった。 「白鳥の湖」のオディール役のダンサーの怪しげな表情が映画のシーンから抜粋したかのような雰囲気があるものだった。 (まるでブラックスワンの映画の広告みたい) このプリンシパルダンサーはイリ―ナ・コレスニコヴァという。とにかく目の表情が王子を誘惑している目つきのアップのものなのだ。 それで、とうとうあの怪しげな目つきの表情の踊りがどんなものか観たくなったのだから我ながら驚く次第。 チラシにも彼女を讃美するコメントがたくさん載っていて、それにもつられた訳だ。

 それにしても彼女のダンス表現は悪く言えばあざといというか、ちょっと恥ずかしげもないそれなのだ。 だが、それが高度なテクニックに支えられていることがわかるので、納得してしまうのである。 たとえばオデットのジーグフリード王子との出会いで彼に愛を感じていく過程が憎いくらいに心理描写として、あるいは行動のプロセスとして表現されるのだ 。あるいはオディールの王子を誘惑していく過程など、いやあ、まいったねというくらいにうまいのである。 (説明的ということが言えるかもしれないが)まるで映画の心理描写を踊りのテクニックにすべて投影しているように思えるのだった。 ちょっと今まで、こういう白鳥というのはいなかったんじゃないだろうか。   彼女はワガノワアカデミー出身だから、生徒の時に優秀だったら、そのままマリンスキーに入団してもいいはずだ。 それが無名なバレエ団に入ったということは、このバレエ団に入ってから、きっとうまくなったのかもしれない。いや、なにかいわくがあって入団したのかもしれない。 (彼女がプリンシパルになったのは3年目くらいだという)そしてこの白鳥はパンフレットによれば、700回以上も踊っているらしい。役がこなれているなんていうものじゃない。いやはや参りましたというところ。 とにかく彼女が持っているバレエ団という感じだ。それなりに男性ダンサーもコールドもいるけれど、まあ、さほどに取り立てていうものがあるわけではない。 (でもまあロシアバレエの片鱗は窺がえる)ただただイリーナ・コレスニコヴァの「白鳥の湖」なのであった。

 その舞台を観ながら、振付家イワーノフの繊細かつ大胆な振付を思い偲び、先人の才能に敬服するのだった。 イワーノフのことはいつか触れてみたい気がするが、とにかく「白鳥の湖」はイワーノフが本来の振付だったという。 ところで折角のイリーナ・コレスニコヴァの熱演なのだが、この作品では王子がロットバルトとの闘いに勝ち、魔法が解けて二人の愛を成就するという結末になっていた。 あきらかにソ連時代の大衆派のエンディングなのだが、まともに考えて、この「白鳥の湖」は絶対に愛が成就しないことの方が作品の深みが出るのである。 ジークフリード王子のちょっとした弾みの怖さが、身を滅ぼすことになるというストーリーは誰しもが感じ入るのではないでしょうか。 だってオデットとそっくりに美しく、しかも妖艶なんだから。ネっ。女で身を滅ぼす。おお、コワ。

* 写真  パンフレットより

第1回 「白鳥の湖」男にとっていい女とは? を読む
第2回 「ラ・シルフィード」少女の横恋慕 を読む
第3回 「ジゼル」ジゼル狂乱 を読む
第4回 「くるみ割り人形」は少女の一夜の夢? を読む
第5回  マラーホフのチャイコフスキーへの熱い想い を読む