大人からのバレエ推進委員会監修

マダム、バレエをご一緒しませんか?

高野達也

太田省吾主宰の転形劇場元演出家。

代表作「もうひとりのアリス」「青い舟の歌」

著書 「現代二等兵物語」

現健康ジャーナル社代表取締役。

第5回 マラーホフのチャイコフスキーへの熱い想い

ジゼル

僕はなんの予備知識もなく、ベルリン国立バレエ団の「チャイコフスキー」を観てしまったのです。
実はバレエに造詣の深いご婦人二人から前日のベルリンバレエ団の「シンデレラ」にブーイングしたということを聴いておりまして、どうしようかと迷ったのですが、チャイコフスキーの音楽をテーマにした作品なら、それなりの面白さがあるのではと思い直したのでした。つまり僕の興味の関心はチャイコフスキーのそれぞれの曲をどのような構成でまとめるかといったものであったのです。たぶんバランシンの「チャイコフスキー パ・ド・ドゥ」を思わせるような作品だと勝手に思い込んで観たのでしたが、豈図らんや、それは本格的に人間チャイコフスキーを描こうとしたものでした。つまり人間チャイコフスキーの苦悩と芸術家チャイコフスキーのせめぎ合う本格ドラマだったのです。

よく理解できたのはマラーホフのチャイコフスキーへの想いというのが尋常ならざるものなのだということ。同じ芸術に携わるものとしての情熱と人間的な苦悩するチャイコフスキーへの共感。それが熱く伝わってきたのです。

バレエテクニックに関してシロウトな僕でさえ、マラーホフの素晴らしさは理解できるし、感じることもいっぱいです。だけど、バレエという表現の限界性をこの舞台で感じたのも事実です。なぜならマラーホフはチャイコフスキーの苦悩をマイム的なるもので表現してしまうからです。チャイコフスキーが苦悩していることを説明してしまうのです。バレエは神話的なあるいは近代以前の世界の物語を語るのは得意な表現ジャンルなのですが、複雑な人間の心理などを表現するには適した言語ではありません。どうしても大げさなマイムで苦悩を表現せざるを得ないというのが辛いところです。

それでもこの作品のすごさはなんといっても振付家のボリス・エイフマンの腕力的な演出とスピーディな振り付けでした。

バレエ団の男性ダンサーの逞しさと美しさ、そしてヤーナ・サレンコを始めとする女性ダンサーの優雅さ(日本人ダンサーも3人いました)は、洗練されたダンスの妙味を堪能させてくれたものです。

振り付け家のエイフマンはなんとシベリア出身というのですから、ロシアの田舎っぺといっていい。その彼がどこでバレエを手に入れたかが興味津々といったところでした。

前述したマラーホフの苦悩の表現もこのエイフマンの振り付けの中では、生々しさがダンスの中に溶け込むような印象になっており、バレエ表現の限界性をねじ伏せてしまった演出を認めざるを得ません。 いやいや自分の勝手なイメージがこうも異なった舞台を見せられるとは思ってもいませんでした。バレエはテキストが前提になる芸術なのだと云うことを改めて感じたものです。

それにしてもマラーホフへのカーテンコールの熱い嵐は驚くばかりでした。人をこんなに感動させるなんてたいしたダンサーなんだとしみじみと思ったのでした。

第1回 「白鳥の湖」男にとっていい女とは? を読む

第2回 「ラ・シルフィード」少女の横恋慕 を読む

第3回 「ジゼル」ジゼル狂乱 を読む

第4回 「くるみ割り人形」は少女の一夜の夢? を読む

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