大人からのバレエ推進委員会監修

マダム、バレエをご一緒しませんか?

高野達也

太田省吾主宰の転形劇場元演出家。

代表作「もうひとりのアリス」「青い舟の歌」

著書 「現代二等兵物語」

現健康ジャーナル社代表取締役。

第3回 「ジゼル」 ジゼル狂乱

ジゼル

「ジゼル」はご存知のように代表的なロマンティックバレエです。ドイツの村娘ジゼルはとても病弱な娘らしい。なのに踊りは一日踊っていても大好きというくらいの踊り好き。そんな体力があるなら病気など治っているのじゃないかと疑問も湧くが、それはまあ置いといて、ジゼルはアルベルヒトという貴族の息子と恋仲になってしまうのです。そのジゼルに同じ村のヒラリオンという青年が恋をしています。このお話の構造は貴種流離譚と言っても差し支えないのでしょうが、やはりマレビトに惹かれるというのが娘ごころかもしれません。

さて恋心にシットも混じってヒラリオンがアルベルヒトの正体を大勢の人の前で証すとジゼルは嘆き悲しむあまり狂乱の果てに命果ててしまいます。

僕は「ジゼル」の舞台を観るときに、このジゼルの死に方にいつも注目します。というのはおおよそこのシーンをリアリズムで通そうとすると、自殺でもしないかぎり死ねるものではないからです。心臓発作という説もあるようですが、男に裏切られたからと言ってショック死するのも、あまりにもリアリティのない死に方だとふつう思うわけです。

だから思うのですが、この場面は歌舞伎のように様式的な死に方でないと不自然な印象を観客に与えてしまいかねません。あくまでも踊りの死に方でないとならないわけです。内面的なリアリズムでやられたら、観る方が困ってしまいます。

もともとロマン派の伝奇作家テオフィール・ゴーティエが「ジゼル」の構想をもったのは、ハイネの「ドイツより」を読み,ウィリーの伝説をバレエ化したいと思ったからだといいます。彼の頭の中には、ジゼルやウィリーたちが幻想的に踊る場面があり、そこにつなげるための1幕の場面が必要だったのではないでしょうか。要は踊りが大好きなジゼルが死ぬ必要があったわけです。


そもそも踊りとはセクシャルな行為でもあるのですが、婚礼ができなかった処女の化身(男に騙された未婚の女性の化身という説もある)といわれているウィリーという妖精の踊りは性的なものを連想してしまいます。そのウィリーたちが森に入ってきた男を、一晩中踊り狂わせて死なすというのも、ゾクッとくるようなエロチックな行為というか、頑なな女性の怖さというものを感じさせます。

もちろんジゼルは自分のいのち?に替えて、愛するアルベルヒトを殺さないように守り、墓の中に消えていくのですが、こんなに情の深い女性を弄んだ アルベルヒトの罪は許し難いものがあると男の僕でも思います。それにしてもウィリーになった女たち、そしてジゼルの切なさが痛いほどに伝わってくるのですが、それはまた官能的なエロチシズムを感じるのは不思議な体験です。


Tweet

第1回 「白鳥の湖」男にとっていい女とは? を読む

第2回 「ラ・シルフィード」少女の横恋慕 を読む

第3回 「ジゼル」ジゼル狂乱 を読む

第4回 「くるみ割り人形」は少女の一夜の夢? を読む

第5回  マラーホフのチャイコフスキーへの熱い想い を読む

TOPへ戻る